『江副浩正』(9)

第5章を読んでいきます。

試行錯誤を繰り返しようやく発行された「企業への招待」は、2年目にしてすでに大企業が名を揃え、就職希望の学生にとっては欠かせない本となりました。

そして新たな提案が企業からありました。学生の適性テストを作って欲しいというものです。

当時、学生の適性検査として行われていたのは、 1桁の足し算を15分間ずつ二回に分けて行い、1分ごとの計算作業量の変化パターンから人の性格や適切をつくるという『内田クレペリン精神検査』というものでした。
企業側もこのテストがほんとうにいいのか、と疑問をもちながらもずっと続けられてきた検査でした。実際に、このようなテストで適性がはかれるとは全く思えません。

東大で教育心理学を学んだ江副にとっても、これで適性が見抜けるとはずっと思えなかったそうです。
そこで、新たな人材活用のための適性テストを作る動きが始まりました。
しかし、じつは江副は自分の企業の求人を採用するとき、よりよい人材を採用しようと採用テストを独自で作り上げていたのです。
そのテストを使って優秀な人材だと思ってもいざ仕事をやらせて見れば契約を一つもとれない学生もいて、そのたびにテストは改良されて完成度の高い人物評価の材料を彼はすでに持っていました。

企業に、自分自身で準備を重ねてきた独自の適性テストを差し出すと、単純なクレペリン検査で慣れてきた人事担当に驚かれました。
短時間で深い人物評価が可能なそのテストは、クレペリンが3円のところ350円の価値をつけ、その点でも企業側を驚かせることになりました。

自分が優秀な人材が欲しいと貪欲に研究を重ねていった結果、素晴らしいテストが完成し、
いつも画期的なことを思いつくという点で江副の偉大さがわかりました。